大切な想いを「預かり守る」缶メーカー

同社は、1906年に石川さんの曾祖父の義兄・側島佐兵衛(そばじまさへい)さんが創業。養蚕業で使用する暖房器具や毛羽取り機にブリキ板を使っていたことからはじまり、戦時中の乾パンなど、軍需に対応した時代を経て、ブリキ缶製造専門の会社となりました。

全国でも数少ない「缶の会社」として、現在は、一般缶と呼ばれる乾物やお菓子などを入れるブリキ缶やスチール缶を製造・販売。主に菓子メーカーなどに缶を卸しています。ほかに各種プレス加工やOEMもおこなっています。創業117年の老舗缶メーカーとして、「大事なものは缶に入れる」という文化を未来に繋いでいくことを目指しています。

BtoB製品が主力の側島製罐ですが、近年は一般消費者向けのBtoC製品も手掛けています。例えば北欧フィンランドの自然をイメージした「Sotto」シリーズは「子どもの想い出を入れる缶」として企画・制作されました。ファーストシューズやおしゃぶり、へその緒など「大切にとっておいたつもりでも、いつの間にか失くしてしまいがちな想い出の品」を大事に保管できます。

子どもとの想い出を大切にしまう親の所作から、子どもは親の愛情を感じ取ります。蓋の裏に書かれた言葉は「あの日のこともこの日のこともいつか一緒におしゃべりしようね」を意味するフィンランド語。「缶は大切なものを守るためのもの」という側島製罐の思いが込められた商品です。

「Sotto」を手にする石川貴也さん

営業は数字より「お客様の悩み解決」を重視

「営業職の募集ですが、必ずしも営業経験が必要なわけではありません」と石川さん。たとえば、サービス業界の事務経験や、メーカーのサービス事業部的な部署での勤務経験など、異業種でのはたらきも役立つと考えているそうです。

「当社の営業には、ただ缶を販売するというより、カスタマーサクセス的な視点が必要です。お客様のためになにができるか?どうすれば現状がよくなるか?といった視点でモノを見られる人なら、問題なく業務を担っていただけると思います」

その点、石川さんが「営業のエース」と呼ぶ入社5年目の古田美千子さん(33)は営業職未経験で入社し、現在は主任として活躍しています。強みは「営業としてプライドを持ちながら楽しく仕事ができる」ところ。「営業成績を上げることが目標ではなく、お客様の課題解決にナチュラルな喜びを感じられる」タイプで、同社の仕事にピッタリだと感じるそうです。

「お客様の悩みの解消や喜びにつながるような提案をすることで、世の中に価値が生まれます。そうしたことに喜びを見出せるような、価値基準が数字ではなく『マインド』にあるような人が当社には合っていると思います」と石川さんは話します。

未経験からでも段階を踏んで教育

営業の仕事は側島製罐が初めてだという古田さんは、前職が接客業。人と接することが好きな自分には、この仕事は合っていると手ごたえを感じたといいます。

同社の営業内容には、①インバウンド営業②ルート営業③新規開拓の3つがあります。

最初は①の問い合わせのあったお客さまへの対応からスタート。実務で教わりながらおこなうため未経験でも安心です。②は最初に先輩に同行して既存客を周り、慣れた頃に独り立ちします。入社してから大体半年前後で③の新規開拓までできるようになるそうです。

新規開拓については、リストを見てひたすら電話をかけるような営業方法は求められません。最初はオフィス周辺を巡って新しいお菓子屋さんを見つけるような、身近な活動から始めることができます。

「新人の頃は、好きなお菓子屋さんに片っ端から問い合わせメールを送りました。『営業メールはラブレターだ』と聞き、エモい顔文字をたくさん使って『御社のお菓子が大好きなんです!』と書きました。8割アポOKの返事が来ました」と古田さんは話します。そのうち成約できたのは2~3割で、かなり高い成約率です。

自ら提案した「かわいい」が形に

相手の望みを聞き出すより、自分から投げかける方が得意だという古田さん。古田さんは独自のマーケティングをおこない、お客様に提案をします。インスタグラムをチェックしたり、店頭や催事にはマメに足を運んだりして、今はどのようなものが流行っているか「価格帯」や「サイズ」などを常にリサーチしています。

たとえば小さな缶にお菓子を詰めたものが人気だとわかった時は、取引先のお菓子を自社の缶に詰めて「今、このくらいの小さなサイズの缶がかわいくて人気ですよ」と提案。成約につながり、自身のアイデアが形となりました。

もともとお菓子やかわいいものが大好きだという古田さんにとって、この仕事は楽しみながらできる上、やりがいがあるといいます。「一番うれしい瞬間は、やはり自分の提案が通ったときですね」。

古くからお付き合いのあるお客様の中には、古田さんより缶にくわしい人もいます。「業界的に5年目はまだ新人です。印刷などの関連する知識もまだまだだと感じますが、丁寧に成長していける環境がうれしい」と話します。

「自分で楽しいことをみつける」人があう社風

営業におけるルールは一つだけ。利益が出る「目標額」を決めて、それを基準に「見積もり額」を算出します。「MVVに沿っていれば、営業のやり方は問いません」と石川さん。

裁量が大きい分、責任は伴います。しかし、古田さんによると「数値目標は、引き継いだお客さんの注文が取れれば、新規開拓がそれほどなくてもクリアできる」のだそう。「『売上至上主義』の人よりは、自分で楽しいことを見つけて『とことん楽しめるような人』に合っているのでは」と話します。

子育て中の社員への理解もあり、急な発熱や学校行事などで突然休んだり、勤務中に抜けたりすることも問題ありません。このように、女性も男性も働きやすいよう、フォローがいたるところで考えられています。

10月~12月は繁忙期ですが、一年間でみるとひと月あたりの平均残業時間は20時間程度。有休消化率は50%くらいで、休日出勤はありません。それでも石川さんは「残業は20時間以下にするのが目標」と話します。

ノビノビと楽しんで仕事を

石川さんが入社して3年で、20代~30代の若い社員が増えました。「MVVをつくって一年半で、入社前に自社のビジョンと目線の合う人が入社してくれるようになった」といいます。

古田さんによれば「商品や会社が大好き、という熱い気持ちの社員が多い」とのこと。同世代の女性社員4人は、休日も一緒に遊びに行くほど仲が良いそうです。休憩時間に若手の20代とベテランの80代が談笑する姿もよく見られます。古田さんは「わからないことがあれば、何でも聞ける雰囲気があるので、ストレスを感じにくい環境です」と話します。

「新しい営業の人には、ノビノビと楽しんで仕事をして欲しい」と石川さん。「楽しみながら企画を立てて、たくさんの人に喜んでもらえる仕事です。当社の缶が好きな人、かわいいものやお菓子が好きな人なら、きっと楽しめます」。

取材・文/陽菜ひよ子

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