施工管理で大手ゼネコンからも信頼を獲得
1990年2月に大阪市天王寺で創業した豊開発は、2023年で創業33年目を迎えました。特徴は重機や職人を持たず、土木工事の施工計画・管理や構造計算などの提案を主な業務にしていること。これは創業当初から変わらないやり方で、業界ではあまり見られない珍しいスタイルだそうです。
しっかりした地盤や基礎がなければ、建物は建てられません。その仕上がりの質に徹底的にこだわった豊開発の仕事ぶりは、元請けである大手ゼネコン各社からの信頼を得ています。
手がけるのは、大規模マンションや商業施設、関西の主要ターミナル駅やその周辺の工事など。具体的には、尼崎駅、京橋駅、芦屋駅、うめきた2期地区の工事に携わってきました。
駅では、リニューアル工事やバリアフリー工事のほか、改札などの駅舎機能をプラットホームの上に設置する「橋上駅」工事も担当しています。
そうした現場で行う施工管理の仕事は、決められた期間内に工事を終えるための関係各所との調整をはじめとした、マネジメントが主です。工事に入る前の工法の提案から、工程・原価・品質・安全の管理のほか、元請企業と協力会社間の調整業務、作業員の統率、現場環境の整備も行います。
「一つひとつの作業自体は作業員に任せて、私たちは請け負った工事の全体の工程を管理します。経験を積まないと難しい仕事かもしれませんが、豊開発ではそのための方法や技術を先輩社員から後輩社員へ伝えています」(清水さん)
30年の実績で最適な工法の提案と手配を実現
豊開発は土木工事の中でも、地面の下から構造物を支えられる「杭打ち工事」や、掘削した地盤が崩れないように行う「山留(やまどめ)」と呼ばれる重仮設工事の施工管理を専門に行います。
工事の対象は目に見えない土の中なので、いくら事前に地質調査を行っても、掘ってみると予想以上の湧水があったり地盤に問題があったりするそう。それが土木工事の難しさですが、そこで生きるのが豊開発の提案力です。
一般的な土木、建築会社は工法の提案まで行いません。豊開発にそれができるのは、同社が30年以上、さまざまな現場の土の質や特性を観察し、その知見と実績があるからだと、清水さんは誇りを持っています。
「弊社では、施工現場の特性に合った最適な工法で、効率のいい作業方法を提案しているんです。そのために必要な人員や重機は、協力会社のネットワークで手配しています」
人員と重機を持つ協力会社とのつながりも、同社の強みです。そのつながりが、専門分野を持つ複数の協力会社の組み合わせの提案や、工法や現場の状況に合わせた作業員と重機の手配を可能にしています。
それも、工事が始まる前の打ち合わせで、地盤の中の状態に合わせた本当に必要な作業を見極めたり、そのためのプロフェッショナルな作業員を確保したりといった、本質的で質の高い施工管理を実施できるのが豊開発の真の強みなのです。
また、豊開発の施工管理職は、現場で起きる不測の事態にも柔軟に対応しています。
例えば、地面の下から大きな岩が出てくるなどのトラブルはありうることです。そうした原因でもし進捗が遅れる場合は、施工管理職が元請けであるゼネコンと作業を行う協力会社との間に入って調整役になります。
「まず、作業の様子を確認して現状を把握し、しかるべき人にきちんと事実を伝えます。それから一緒に打開策を探ったり代替案を提案したりして、しっかり話し合いを行っているんです。両者には、そうやって誠意をもって接しています」
施工管理職は、ときに自身が防波堤になって相手と交渉したり、橋渡しとしてコミュニケーションをとったりして円滑に事を運びます。
清水さんは「不測の事態のときこそ、豊開発の価値が発揮される」と言います。
「元請けであるゼネコンにとっては、『豊開発が調整役を担ってくれる』ということが弊社を選ぶメリットの一つなんです」
幅広い能力が身につき達成感が味わえる施工管理職
豊開発では、現在9人が施工管理職を務めています。27歳の後舎孝祐さんは、専門学校で測量を学んで19歳で新卒社員として豊開発に入社しました。
「豊開発に入ったきっかけは、専門学校ですすめられたからです」。実は後舎さんは、最初から施工管理をやりたいと希望して入ったわけではありませんでした。しかし、実際に働いてみると、真面目にコツコツと目の前の仕事に取り組む姿勢が施工管理という仕事に合っていました。
先輩社員について仕事をするうち、広い現場ではメインの部分を先輩社員が担当して負担の軽い別のエリアを後舎さんが担当するなど、少しずつ任されるように。協力会社の人たちとも関係を築き、4年ほど経った23歳の頃に1人で現場を任されるまでになりました。
「先輩と一緒に仕事をするときは、自分がどれだけ動けるかを意識しました。主体的に動くことで、仕事への理解も深まったと思います。施工管理の仕事はさまざまな役割を担うので、僕の場合は独り立ちまでに4年かかりましたが、例えば測量技師など一つの作業に特化した場合は、もっと早く独り立ちできたと思います。でも、同じ4年という期間で学ぶ量は、豊開発の施工管理職の仕事のほうが圧倒的に多いんです」(後舎さん)
後舎さんは、施工管理の仕事を通じて、コミュニケーション力や交渉力のほかにも、先を考えながら計画していく想像力が身に付くなど、自身の成長具合を実感しているそうです。そして会社としても、社員の成長を後押しするため、定めた実務経験をクリアした社員に対して、施工管理技士や監理技術者などの資格を積極的に取得できる体制を整えています。
また、施工管理職の魅力について、後舎さんは「達成感」があると言います。
「自分たちは、作業そのものをするわけではありません。それでも予定の工期に終了し、造ったものが見える形で目の前に現れれば『よし、終わったぞ!』という実感と、やって良かったという達成感を味わえます。それが一番ですね」
そう話す後舎さんに、1日のスケジュールを聞いてみました。
工事現場のスタートは、朝8時か8時半。朝礼までにその日の作業内容を書き出して協力会社と共有し、朝礼後は12時まで作業。1時間の昼休憩ののち、13時から午後の作業にかかり、17時に終了するそうです。
施工中は、設計図や仕様書通りの品質を満たしているか写真を撮りながらチェックしたり、作業の安全性を確認したり、打ち合わせに出席したりと現場を動き回りながら、周囲とのコミュニケーションを積極的に取るのだとか。
「書類の作成などで多少残業する日もありますが、私自身は基本的に残業することがないよう努めていて、自分の時間を確保していますね。また、担当現場によっては休日や夜間に作業することもありますが、手当はしっかりしていますし、場合によっては振替休日も取得できます」
求めるのはチームのものづくりを支える自律心と自走力
豊開発では、現在メンバー拡充を図って20代から30代の転職者や新卒者を求めています。清水さんは、活躍できる人物像に「自律・自走できる人」を挙げています。
昔から土木・建築現場では「上から言われたことを忠実にやっていたらそれで良い」といった風潮があったそうです。それに対して清水さんは、「もっとこうしたら効率よくできるのに」というように自分の考えを持って行動でき、自分を律することができる人こそ豊開発に向いていると考えています。
なぜなら、豊開発の社員は、施工管理職として工事現場全体を見ながら、自分の頭で物事を考える必要があるからです。
「全体を見る仕事の大変さはあると思いますが、作業員よりもずっと裁量権があります。土木・建築会社で施工管理の経験があり、将来現場で長く働いて新たな仕事に挑戦したい人なら、弊社で能力を十分発揮できるはずです」
また、現場を知る作業員から施工管理職への転身も歓迎しています。
後舎さんは「現場で体を使って働くことに魅力を感じる人は、現場作業員が向いています。一方で体を使わなくても、大きな建築現場を舞台にみんなでチームとなってものを創り上げる達成感を味わいたい人には、施工管理職を検討してほしいです。現場が分かっているからこそ、 安全や品質という部分により深く向き合えるのではないでしょうか」と話します。
さらに豊開発では、ゼネコン出身者も施工管理職として働いているそうです。
土木・建築業界をポジティブなイメージへ
清水さんが代表取締役に就任してからは、これまで築いてきた会社の強みを踏襲しながら、現場を支えるバックオフィスの強化や職場環境の改善にも乗り出しています。たとえば、施工現場におけるトイレや更衣室、パウダールーム、シャワールームといった設備の整備や、施工管理職として働く女性に役立つ商品の開発などに取り組もうとしているそうです。
また、いまだに土木、建築業界に付きまとう「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージを払拭すべく、「見せ方次第で業界に対するイメージは変わる」という考えのもと、会社のロゴやホームページのリニューアルにも動いています。加えて、施工管理職や現場の魅力を発信する、オウンドメディアにも取り組んでいるそうです。
「私たちが手がけるのは、マンションや駅、トンネル、高速道路といった人々の日常を支える建造物です。生活に密着しているからこそ、その土地の方や地域との関わりを大切にし、土木・建築業にポジティブなイメージを持っていただきたいんです」
ほかにも付帯業務として、地面の強度である地耐力を測定するスポット的なサービスを提供しています。また、ドローンで空撮した土地や建物を画像で記録するサービスも提供へ向けて進めているそうです。
「こうした仕事を提供できたらきっと便利で面白いだろう、という発想は、若手社員が中心に出してくれているんです。とても頼もしいですし、彼らの力に期待しています」
取材・文/國松珠実
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