24時間以内納品のスピード対応でもノー残業
同社は、1966年に田城さんの祖父・俊雄さんが創業しました。1997年に父の裕司さんが2代目となり、工作機械を相次いで導入。これにより切断や曲げ、溶接などの精密板金加工から精密機械加工、全品全検査による品質管理まで社内で対応できる体制が整いました。3代目の田城さんは「一気通貫の加工対応に加えて、即日見積もり・24時間以内納品のスピード対応も強み」と胸を張ります。
「スピード対応でも現場に負荷がかからぬよう、定期的に進捗報告の時間を設け、社員が互いにカバーし合える仕組みを構築しました。そのため基本的に残業はありません」
現在の社員数は15人。20代が9割を占める会社です。田城さんは「若さゆえの体力と機動力も、うちの強みかもしれない」と笑います。
同社の顧客は、インフラ関連から自動車、航空、食品、医療・衛生分野まで多岐にわたります。「うちで作るのは、手の平サイズから人より大きなものまでさまざま。オートバイの小型部品から、7.5m×3mの浮桟橋フレームまで作れます」
「3WAYピザ窯」などのオリジナル商品開発にも積極的
同社は20年に新事業として自社商品の開発をスタート。非接触でドアが開けられる「タッチレスハンド」や、飛沫防止用アクリル板を固定する「パネルスタンド」など、コロナ禍のニーズに合わせた商品を続々と発表しました。以後3、4カ月に1度のペースで、新商品を発売しています。
自社製品開発の背景には、展示会で自社の技術力をアピールする以外の目的もありました。「オリジナル商品に対するお客様のリアクションは、ものづくりの楽しさとやりがいの醸成に直結します。社員の良いモチベーションになってほしい」
田城さんが開発に6カ月をかけた「3WAY ピザ窯」は同社の代表商品です。1台で3役(ピザ窯・焚き火台・燻製器)を担う機能性と、A4サイズに折りたためるコンパクト設計を両立させ、キャンパーから支持されています。
「素材や板厚にこだわり、熱変形しないけれど持ち運びしやすいギリギリのラインを攻めた。完成まで100回以上、焚き火実験をしました」
努力が実を結び、同商品は22年の東京インターナショナル・ギフト・ショー「LIFE×DESIGNアワード」でグランプリを受賞。これを見たものづくりに関心のある若者たちから、同社求人の募集人数1~2人に対し10人もの応募が集まりました。
「私にはここしかない」若き作り手が感じたタシロの魅力
同社社員の橋本さんは、地元の大学を卒業後、23年4月に入社しました。
「大学ではプロダクトデザインを中心に学びました。ものづくりの仕事を志す学生にとって、ギフトショーは憧れの場所。しかもグランプリを受賞していたので、『私にはここしかない』と確信し、応募しました」
橋本さんは就活で同社を調べるうちに、「ここには若い作り手が挑戦できる土台がある」とさらに心ひかれたといいます。
「タシロの紹介記事を見て、オリジナル商品は現場社員の発案だと知りました。デザイナー以外の社員の意見が反映されるのは、普通の企業ではまずありえません。大手なら商品開発に携われるまで何年もかかりますが、『この会社なら若手でも挑戦させてもらえるかもしれない』と思いました」
内定3カ月後に「ギフトショー出品」の夢をかなえる
2度の面接を経て、内定を獲得した橋本さんのもとへ、チャンスはすぐに訪れました。22年6月、田城さんから「ギフトショーに向けた新商品開発」の提案がありました。
橋本さんは同年8月に内定者アルバイトとして働き始め、自身が企画・デザインを手がけた蚊取り線香ホルダー「BONSEKI―盆石―」を完成させました。そして同年9月、ギフトショーに出品しました。
「開発当時は、工場の機械で何が作れるのか、まだ理解できていませんでした。私がデザインをもとに『こういうものを作りたい』と相談すると、周囲の職人さんたちが作り方を提案してくれました」
何度も試作を繰り返す商品開発は、通常、長い期間を要します。しかし同社には、図面があればすぐ試作できる環境があります。橋本さんは商品が短期間で仕上がってゆく様を見て、「ここで働いたら、自分のデザインやアイデアの幅が広がる」と胸を弾ませたそう。
内定者に挑戦の場を与えたことについて、田城さんは「企画から加工打ち合わせ、展示や販売まで関わってもらうことで、ものづくりのゴールを提示し、楽しさとやりがいを感じて欲しかった」と語ります。「商品開発には、デザイナーから現場の職人まで、多くの社員が関わります。打ち合わせなどを通じて、既存社員らと関係性を築く機会にもなると思いました」
社員には大手企業に劣らぬ教育を
橋本さんは入社後、「いつかヒット商品を開発すること」を目標に、日々研修に励んでいます。
田城さんは「大手企業に負けない教育」をモットーに、新入社員教育に注力しています。新卒者には、社外のビジネスマナー研修やOJTを週ごとに計画し、実施。入社後の不安に寄り添えるようメンター制度も導入しました。入社3カ月後には、個々の能力に合わせ、新たな教育課程に移行する計画です。
「私は、社員の努力が報われる組織であり続けたいと考えています。そのためには、“会社が社員を評価するポイント”を明確化する必要があります」
同社の教育カリキュラムや資格取得制度は、この考えに基づいています。社員に「工程別スキル評価表」を配布し、評価基準を明確化。業務に関連のある資格取得者には、基本給に資格手当を加算し、支給します。
「新入社員にも評価基準を伝え、努力の道筋とキャリアパスを示しています。一方で、達成目標の設定は、各社員に任せています。毎年各自目標を設定してもらい、四半期ごとに会社と社員がすり合わせる場を設けます」
橋本さんはすでに10年先の目標を定めています。
「当面は図面を描く仕事が多いですが、10年後は機械も動かしていたい。デザインから製造まで全部できる社員になりたいです」
「日本で一番挑戦する町工場」へ
同社は「日本で一番挑戦する町工場」をキーワードに、自社商品開発や展示会出展に挑んでいます。田城さんは「ものづくりに対する情熱がある若手社員を迎え、さらに挑戦を重ねたい」といいます。
「技術はなくとも目的意識と自主性さえあれば、未経験でも問題ありません。経験値もスキルもない20代だからこそ、果敢にチャレンジできることもある。ものづくりに対する情熱は、周囲の人を動かします。あなたの『作りたい!』をかなえる環境が、タシロにはあります」
取材・文/佐藤優奈
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