文具とアウトドアの自社ブランドを展開

1968年、栗原さんの祖父・保男さんが前身の栗原精機製作所を設立。創業当初はカメラ部品を製造していました。その後、新工場への移転や工作機器の導入を経て、業務の幅をさらに拡大。現在では、高度な金属加工技術を武器に、医療機器、産業機器、光学機器関連の部品製造を行っています。

「2000年代以降、プラモデルなどのホビー分野の取引先も増えました。他に釣り具や自転車メーカーとも取引があります」

同社は、2019年に自社ブランド事業を本格スタート。父・稔さん(2代目)の文具ブランド「COOL MILLINGS」と、匠さんのアウトドアブランド「KURIHARA TAKUMI」を展開しています。

「外部のプロダクトデザイナーから、『アウトドア製品を作りたい』と相談され、共同開発したのがきっかけです。完成した多機能ランタンスタンド『ZEROPOD38』はすぐに完売しました」

「KURIHARA TAKUMI」の多機能ランタンスタンド「ZEROPOD38」

高い機能性とスタイリッシュなデザインが評価され、同ブランドはアウトドア界隈で知られた存在に。コロナ禍で部品供給が停止され、空き時間を有効活用しようと始めた自社商品開発は、結果として自社の認知拡大と技術力のアピールにつながりました。現在、自社ブランド事業の売り上げは、全体の約2割を占めています。

3代目の改革で余分な残業や休日出勤を解消

2023年に代表取締役社長に就任した栗原匠さん。現在は営業を中心に、経営や商品企画、広報、現場の管理業務など幅広く担当しています。

「入社当初は図面も読めず、『機械って何?』状態。設計や作業工程を把握していないと、取引先と話もできません。2年間、職人に付き、現場業務を学びました」

栗原さんは入社後、社内の課題に気づき、「変えたいことリスト」を作成。改革に乗り出しました。一つは、社内コミュニケーションです。

「製造業の現場は、黙々と作業するのが常識という風潮があります。しかし、コミュニケーション不足からミスが生じ、作業効率が下がる場面も多かった」

これを解決するには、社員同士が気軽に雑談できる環境が大切だと気づいた栗原さんは、まずは自ら積極的に社員に話しかけるようになりました。すると、徐々に社員同士の会話が増え始め、工場が活気づき、ミスが減少しました。

社員数は21人。明るく雑談しながら、手際よく作業していきます

二つ目は、生産管理です。栗原さんは職人の仕事の進み具合を毎日集計してデータ化し、スケジュール管理と作業効率改善に役立てています。生産管理の徹底で納期遅れを防いだ上に現場の負荷も軽くなり、余分な残業や休日出勤がなくなりました。

営業職と製造職のリーダーを募集

同社は1973年の法人化から、今年でちょうど50年。改革に取り組む栗原さんには、創業100周年に向けた明確なビジョンがあります。

「技術力を基盤とした『自社ブランドの拡大』と『顧客伴走型のものづくり』で、栗原精機のポジションを確立したい」

その背景にあるのは自立心です。下請けの町工場は、メーカーや商社の依頼を受け、製品を作ります。そのため取引先の業績が社運を左右することも。

「自立した売り上げを立てられる自社ブランド商品があれば、取引先に依存しない町工場になれます。良質な自社製品をたくさん生み出し、世に送り出したい」

一方で栗原さんは、BtoB事業の新たな可能性も感じています。過去に自転車メーカーの依頼でブレーキパーツを作った際、設計や製造に関するノウハウを提供したところ、「一緒にものづくりに向き合ってくれる町工場は他になかった」と喜ばれたそう。

「コストや納期ではなく、当社の技術力と開発力に魅力を感じたお客様から選ばれる町工場になりたい。そのためには、メーカーとデザイナー、営業、職人が一丸となって商品開発をする『顧客伴走型のものづくり』の強化が必須です」

栗原さんはビジョンの実現に向けて、営業職と製造職のリーダー候補(各1人)の採用を考えています。

「将来的には各部門長を任せたい。中小企業ならではの大きな裁量の中で、ともにものづくりがしたい人材を求めています」

求めるのはものづくりに貪欲な営業職

営業職志望者には、工場での下積みを経て、ゆくゆくは新規顧客開拓を任せる予定です。製造業の経験有無は問いませんが、図面が読めて、市場の価格帯をある程度把握している人材は即戦力になるそう。

栗原さんが求める人物像は「ものづくりに貪欲な営業職」です。「メーカーとの商品開発は、いつも新たな挑戦です。当社はその挑戦の機会を求めています。ものづくりに貪欲で、チャレンジを楽しめる人と働きたいです」

同社の営業担当は、職人に相談しながら、顧客の要望やデザインスケッチをもとに見本品を作ることもあります。そのため、コミュニケーション力も必要です。「単なる“御用聞き営業”ではありません。作り手とともに新たな商品を生み出し、世に出す楽しさを味わえます」

製造職は自身のアイデアをブランドに

製造職志望者の主な業務は、生産管理と製造です。職人や営業とコミュニケーションを取り、現場を取りまとめる役割を担います。栗原さんは「研修があるから未経験でも問題ない」としながら、「絵が描ける人、平面図から立体物をイメージできる人、細かな作業が好きな人は素質がある」と言います。

一般的に製造職は、デザイナーや設計者の図面からものを作ります。しかし、同社では現場発のものづくりにも積極的です。同社の工場内にはアイデア共有ノートがあり、社員は作りたいものを好きに書き込めます。

「職人が樹脂の塊をランタンにかぶせたのがきっかけで、ランタンカバー『ZEROCO38』が生まれました。このノートから、新たなヒット商品が誕生する可能性もあります」

栗原さんは、新たに加わる製造職志望者にも、「好きなものを作る喜びを感じながら仕事に励んでほしい」と言います。「社員発案商品のブランド展開も考えています。自身のアイデアをブランドとして形にすることで、モチベーションにつなげてほしい」

栗原さんは、社員の努力を会社が後押しできるよう、評価制度も整備する予定です。

匠のものづくりで人を幸福にする会社へ

同社の事業の根底には、「日本のものづくりを盛り上げたい」という強い意志があります。これは先代の稔さんが旗振り役を務めた「町工場プロダクツ(自社製品の開発・発表・販売で町工場を活性化するプロジェクト)」の発足理由のひとつでもあります。

その意志は、栗原さんにも受け継がれています。

「自社ブランド事業を通して、ものづくりの根底には作り手と買い手、双方の幸福があると気づかされました。当社の製品を大切にしてくださるお客様と、その顔を思い浮かべながら働く従業員たちのために、栗原精機は匠のものづくりで人を幸福にする会社でありたい」

栗原さんが見つめる幸福の連鎖の先には、日本のものづくりの明るい未来があります。

取材・文/佐藤優奈

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